2011/07/30

スプリント雑記2 グローバルスプリントチャレンジ

現在、私が最も注目している世界競馬でのイベントであるグローバルスプリントチャレンジ。日本、香港、シンガポール、オーストラリア、イギリスのスプリントG1を舞台にポイント制で世界一のスプリンターを決める。今のところドバイは入っていないが、そのうち加わるはずと思っている。なぜ注目しているかというと、世界のスプリント路線はこれから本当に「グローバル」になる可能性を秘めていると思える。昨年、今年は、オーストラリアのBlack Caviar、シンガポールのRocket Man、香港のSacred Kingdom、南アフリカのJ J the Jet Planeなど役者が多く、日本でもコアな競馬ファンの間では盛り上がっている。

かつて、世界の2000~2400mのレースを対象にしたワールドレーシング・チャンピオンシップというのもあったが、自然消滅状態だし、マイルが舞台のアジアマイルチャレンジというのもあるが、これもまったく機能していない。(そもそもマイルチャレンジなのに4レース中2レースが1400と1800mという状態)。これらと違い、なぜスプリント路線がグローバルに展開する可能性があるのかと私が思う理由をいくつか挙げてみる。

王道路線ではない
主に日本や欧州に当てはまることであるが、いうまでもなく日本や欧州では中距離路線が充実している。日本の古馬だったら、天皇賞、宝塚、JC、有馬など目標とするレースはいくつもある。無理して海外遠征しなくても自国のレースだけで路線を完結できる。それと比べて、日本ではスプリントG1は高松宮記念とスプリンターズSの二つしかない。ただしマイル路線も合わせれば十分なレース数となるのだが。マイラーとスプリンターのどっちつかずの短距離馬ではなく、真のトップスプリンターだったら活躍の場を求めて世界に飛び出すのをためらう理由はないはずである。裏方路線であることが逆に自国の路線に束縛されることなくグローバルに展開しやすくなるように思う。

日本馬は凱旋門賞へ執拗に挑戦はし続けているが、日本の例えばJCと凱旋門賞は求められるものが違いすぎる。いつかは両方制する馬が現れるかもしれないが、それは突然変異的なものになるだろう。やはり日本と欧州の芝中距離路線はワールドシリーズで定常的に交流対戦するのには向いていない。

ドバイWCがオールウェザーの馬場になって、日本の高速芝、欧州の深い芝、そしてアメリカのダートのちょうど中間のような舞台となったように思われた。各国の中距離のチャンピオンが比較的フェアに戦える舞台かもしれないが、欧州の本当のトップは元々ドバイにほとんどこないし、アメリカのダートチャンプもオールウェザーになって遠征しなくなってしまった。自国の王道路線がやはり一番大事だし、シーズンの序盤にあえてリスクを取ってまでドバイまで遠征する必要はないと思っているからである。

レース展開が世界共通
スプリント戦の展開というのはとてもシンプルだ。スタートから飛ばせるだけ飛ばしてゴールまでどれだけ粘れるか、というもの。ペースが速くなりすぎて、差し、追い込みが決まることもあるが、少なくともスローペースになることはほとんどない。またハイレベルになればなるほど、先行馬はハイペースで飛ばしてもバテなくなるので追い込みは決まりにくい。

中距離ならレースの展開もハイになったりスローになったり様々で、勝つ馬には先行馬もいれば追い込み馬もいる。またその国々にペースの傾向もあるので遠征して展開が向かず力を発揮できないで終わることも多いだろう。それと比べスプリント戦ならば世界中どこでも勝つためには、ある程度前につけなければならない。また前につければ必然的に前が塞がれたりする不利を受けることもない。この短距離戦のワンパターンな展開は、中長距離戦で見られる騎手の駆け引きなどを犠牲にするが、強い馬たちにとっては国境を超えてもフェアに力を競いあうことができる。

また、香港、オーストラリア、アメリカなどはフラットなコースで、日本も坂はあるが欧州に比べたら全々大したことはない。その欧州もスプリント戦に限ってはほとんど直線競馬となるため、マイル以上の距離とは違い比較的フラットなコースを使用している。つまりコース形態も他の路線と比べると各国の差は小さい。

スプリンターの性質も世界共通
スプリンターズSや高松宮記念で先行して上位にくるような馬、例えばメイショウボーラーやスリープレスナイトのようにダートでも好成績を残している馬がけっこういる。スプリントでの強力な先行力とダートをこなすパワーは通じるものがある。つまり強いスプリンターとなるためにはスピードとパワーが必要でありこれは世界どこでも変わらない。同時にそれを持っている馬は芝ダート両方を(ある程度は)こなせるように、世界の馬場の違いを乗り越えやすいと言える。

消耗しにくい
なぜ、オーストラリア、そしてアメリカで短距離のスピード競馬が盛んだということを考えてみると、まず根本的理由にこれらの国は競馬の経済性を重視しているというのがある。まずスピード馬は早熟で早くからレースを使えて投資資金を回収できること。そして消耗を避けて多くのレースを使うために、欧州とは異なり短距離のレースが中心になったのである。あくまで中距離と比較しての話だが、短距離のレースの消耗が少ないのならば、競走馬が世界を転戦しやすくなる理由になるはずである。例えばグローバルスプリントチャレンジにも組み込まれているイギリスのロイヤルアスコット開催のキングススタンドS(1000m)とゴールデンジュビリースS(1200m)はなんと中3日であるが、両レースに出走する馬も少なくない。

強い馬が遠征に積極的
香港馬がスプリント路線で最強レベルだということは香港国際競走が始まって徐々に明らかになってきた。その香港のトップスプリンター達は、自国に引き篭もりがちな欧州やアメリカの中距離馬達とは違い、ドバイ、日本、シンガポール、イギリスと積極的に遠征していて、好成績を残している。またオーストラリアの馬もイギリスのロイヤルアスコットによく遠征して活躍している。これらトップクラスの馬が自国に篭らず遠征して好成績を残すことはグローバルスプリントチャレンジの大きな刺激となる。香港馬が遠征に積極的なので、競馬後進国であるがゆえに自国の伝統に囚われることがないこともあるだろう。

香港やオーストラリアの馬が各国で走ってくれることによって世界中のスプリンターの順列が付けやすい。ただ、主要国でアメリカだけはなかなか難しい。アメリカは国土が広く自国だけで十分に路線を完結できる。かつてはBCスプリントの勝ち馬がドバイゴールデンシャヒーンには来ていたが最近は来ていない。他国と異なりアメリカのみがダートが主戦場にあるのに加え薬物使用の問題もある。スパイク使用も違う。逆に他の国がBCスプリントへ挑戦する場合にもハンデが多い。アメリカ馬も積極的に関わるワールドシリーズは難しい。せめてアメリカ馬は唯一の芝でないオールウェザーが舞台のドバイにはトップクラスがもっと積極的に出てきてほしいものである。

アジア・オーストラリアの時代
これからの経済はアジア中心の時代とおり、事実世界地図でアジアの役割は大きくなってきている。お金が集まる所に競馬も栄える。今年、中国本土も競馬解禁となった。香港、シンガポールのみならず他の国々でも次々と競馬が行われるようになるかもしれない。そうなると、まずは自国で生産を行うよりも香港、シンガポールのように大量生産しているオーストラリアから買い付けることになるはずである。言うまでもなくそれは短距離中心の馬達である。

現状では主に香港、オーストラリアの馬が中心に走っている世界のスプリント戦。これからこの路線はもっと活発になって価値はあがってくると思っている。日本はこれらの国に差を付けられてしまっていて、最近は日本のスプリンターが海外遠征することは及び腰になっている。しかし、周りの国々が盛り上がっていて日本はただ場を貸して賞金を支払うだけではつまらない。なんとか日本のスプリンターもレベルアップしてほしい。まずはローレルゲレイロのように香港とドバイに遠征するような馬は毎年のように出てきて欲しいものだ。

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