2011/02/22

距離の価値観

クラシックディスタンスと言われる2400m。なぜ日本ダービー、その模範の本場のダービーが2400mになったかというと、昔は数多くあった3000~4000m辺りの長距離戦と短距離戦とのちょうど中間の距離であったことが主な理由らしい。つまり昔はスピードとスタミナがバランス良く求められるのが2400mあたりの距離であったわけだ。

ダービーのみならず、欧州の最高峰のレースであるキングジョージと凱旋門賞も2400mであるし、この2400m至高主義は欧州、そして日本でも長らく続いてきたが、恐らく競馬の世界地図でダートの小回り競馬が主流のアメリカが大きな割合を占めてきたことによって変わってきた。より早熟性とスピードが求められようになった。アメリカの最高峰のケンタッキーダービー、BCクラシックは2000mだし、比較的最近に新設されたドバイWCや香港国際レース、シンガポールなどで一番賞金の高いレースは皆2000mの距離である。

ここ10年で欧州のチャンピオンはダービー馬でもキングジョージや凱旋門賞をスキップして、愛チャンピオンSや英インターナショナル、そしてBCクラシックの2000mを目指すことが珍しくなくなった。理由はもちろん2400mの実績だけでなく、2000mでも通用するスピードを示すことで種牡馬価値があがるからである。数年前に凱旋門賞の賞金が大幅に引き上げられ、芝のレースでは世界一になったにも関わらずこの流れは変わらないようである。

つまり、競馬のスピード化が進み3000m辺りの従来の長距離戦の価値が下がった。それで代わって長距離戦となった2400mと短距離の中間の2000mがスピードとスタミナが両方求められるチャンピオンディスタンスとなったわけだ。

日本でも随分前に、秋の天皇賞も3200mから2000mになり、短距離路線も整備された。しかし欧州よりも2400m至高主義はおそらく強い。最高峰のレースはダービー、ジャパンカップ、有馬記念であるし、これらのレースを勝った馬が年度代表馬でも大きくプッシュされる。秋天の2000mの地位は高いが短距離は低い。マイラーでもよく年度代表馬に選ばれる欧州とは違い、日本で短距離馬で年度代表馬となったのはタイキシャトルしかいない。

また、欧州ではセントレジャーを始め長距離戦の没落が著しいが、日本も多少は没落したとはいえ、菊花賞や春天はそれなりの地位があるように思える。これは欧州がファンよりも生産者の競馬であるのに対し、日本は生産よりもファンの位置に近い競馬だからかもしれない。生産界でのステイヤーは壊滅したけど、長距離戦を好むファンはまだまだ多い。

欧州は年度代表馬でも分かるように、スプリンターやマイラーも2000~2400mも中距離馬とほぼ変わらぬ地位を占めるが、日本では牡馬だったら、まず皐月賞やダービーのクラシック路線、主に2000m前後の路線を目指す。そこで通用しなかった馬がマイル路線に行く。マイルでも長い馬がスプリント路線に流れる。これはマイルCSが秋天の敗者復活戦のような状況になっていることからもわかる。2000~2400mが最重要視されているというよりは、短距離戦が軽視されすぎている印象である。これはいまや日本の血統を先導している社台がサンデーを始め中距離を重視していることが大きい。我らがビッグレッドも言わずもがな最大目標は2400mのダービーである。

余談になるが、自分がもし中小牧場の経営者だったら、社台の得意カテゴリには決して挑まない。牡馬クラシックは捨てる。そして社台が力を入れていない1200~1600mに絞って強い馬を作る戦略を取りたい。マイネルラヴやアグネスデジタルは頼もしい種牡馬だ。もしラフィアンがこのように方針転換したら私はもちろんついていくが、あり得ないだろう。

2000mがチャンピオンディスタンスとなったのが今現在。そして時は流れて歴史は恐らく繰り返すと考える。経済の世界地図ではアジアの時代と言われているが、お金のあるところに馬も集まる。競馬でもアジアが占める地位が大きくなっている。香港やシンガポール、そして中国本土でももうすぐ競馬が解禁となるそうだ。香港やシンガポールの競馬では、その多くがオーストラリアの生産馬が占めている。そのオーストラリア、そして香港、シンガポールは短距離中心の競馬である。今や香港のスプリンターは世界トップクラス。日本馬は香港スプリントではボコボコにされ、スプリンターズSでは向こうの二流馬に遅れをとる。中国本土も恐らくは香港と似たようなレース体系になるのではないだろうか。

つまり、アジアを中心にスプリント戦の重要性は高まり、さらに競馬界のスピード化が進む。そうなるとかつての長距離路線が辿ったように、今度は2400mの価値も相対的に下がり、2000mでも長距離となる時代が来るかもしれない。そうなるとどうなるか?今度チャンピオンディスタンスとなるのは1200mと2000mの中間であるマイル戦となるかもしれない。安田記念が古馬の最高峰となる時代が来るかもしれない。

しかし、日本は制度改革を始め、何事にも対応が遅い。また別に周りの国に合わせる必要はないのではと我を貫く声も多いだろうし、少なくとも近い未来はないだろう。いつまでダービーの2400m至高主義を貫いていくのか注目したい。

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